先日、ある人(A氏とする)と飲む機会があった。国立大工学部の出身で現在は半導体関係のお仕事をされているエンジニアである。理系の受験生には進路を考える参考になるはずなので、伺った話を了承を得てここに載せます。
因みにA氏とはinternetで知り合いました。この話をある校舎で生徒にしたら、「文通相手みたいなもんですか?」と言われた。ニュアンスは随分違うけど、当たってるなぁ。(^^)
A氏の略歴は
高校卒業後、河合塾*大選抜クラス
→ *大学工学部原子核工学科入学(もちろん志望校)
→ 同大学院工学研究科(随分厳しいゼミだったようです)
→某鉄鋼会社(誰でも知ってる会社。こういう言い方をすれば河合塾もそうか?(^^;))
→外資系半導体製造メーカー
というものです。大学院では学部は違いますが私と同級生でして、飲んで話してたら共通の友人がいました。世間は狭いや。
うちの大学の工学部は就職先がすごい。理学部数学科とは大違いです。
A氏からの情報を紹介します。
@ 工学部原子核工学を選んだ理由
私が高校生の頃は、原子力発電が結構花形に思えた ものです。核分裂利用においては高速増殖炉の開発、加えて核融合技術がさももうすぐ実現するかのような 宣伝、そんな最先端の仕事に就きたいなぁという夢をもって、原子核工学を選びました。
現在のような深刻な行き詰まりを見せるとは夢にも想像していませんでした。人類の英知をもってすればどんなことも克服していくだろうと甘く考えていました。
A 大学時代
まあまあまじめに授業にも出席し、そつなく過ごしていたと思います。でももっと自分の頭を使って物事を考えたりとかした記憶が無いように思います。大学受験の延長で、詰め込みによる試験合格→単位習得に努めていたように思えるのです。
一方では学友や教官との交流により精神面では良い影響を受けたように思います。そういう点では一流大学と呼ばれる根拠があると感じました。
B 研究室選択
工学部に席を置く人間にとっては重要なターニングポイントとなると思います。将来、どんな仕事に就きたいかという希望をおぼろげながらもみんな持っている時期で、その関連の研究室に進みたいと考えます。
3年生の終わりに決定しなければならないのですが、この時期の私は原子力産業に不安を感じはじめて、これからさらに成長するであろう半導体産業への就職を考えていました。そのためにイオンビームを利用して物質の分析や改質をテーマとしていた講座を選びました。
またその講座は学会発表件数も多く、厳しい教授、助教授と噂されるところでした。
C 研究室時代
予算の少ない国立大学の研究室にしては、結構充実した加速器と超高真空設備を備えた実験室を持っていました。環境は万全であったと思います。
しかし、いかんせん私の性根がなってなかったようです。どうしても学生気分が抜けなかったこと、自分で考えるという態度が欠如していたこと等から、
・ 一週間徹夜してデータ収集はするが、そのデータの意味や価値にあまり興味がなかった。とにかくM2まで修了するための実験データ収集マシンに徹していた。
・ いくら徒弟制度に準じているとはいえ、お金ももらっていない学生がなぜ教官のため(と当時は思っていた)に体を酷使して実験しなければならないのかわからなかった。
しかし研究室時代にそんな苦労をしておくと会社に入ってから 同期入社の者よりも即戦力として働くことができることが、社会人になってすぐにわかりました。
・ 自分の研究内容に興味が持てず、英語の論文を読んで勉強することも無かった。
という状況でした。
そんな風なので教官との関係も悪くなり、登校拒否症に近い状態でズルズルM2の終わりを迎えたわけです。指導教官もそんな私に妥協せず、そして許さず、研究室から私を放逐しました。
指導教官も前代未聞の修士論文未提出学生(工学部ではとても珍しいと思います)を出したことはとても残念であったと思います。しかし御自身の理念を曲げない厳格な方でした。(その後もその方針を変更していないようです。よって中退者が後を絶たないらしい。)
就職については当時、大手鉄鋼会社が一斉に半導体事業を含む新規事業に手を染めました。私も半導体産業を希望していましたので、そのうちの一社に入社しました。(今考えてもそんな落ちこぼれである私をよく拾ってくれたものだと感謝しています。)
社会人になってからの仕事と大学で学んだことの関連ですが、私は幸運にも直接結びついています。社会人になってからの業務のほとんどはLSI製造ラインの技師としてイオン注入、高速熱処理プロセスの開発及び管理に携わっています。
しかし、多くの人は例えば自分の研究室での研究テーマとは関わりの無い業務に配属されていると思います。また、入社時から同じ業務を何十年も続けている人も少ないと思います。
長い目で見たときに会社に入ってから重要視されるのは、
@ 論理的な思考ができるか
A 本質(あるいは目標)は何かを正確に理解し、そこにたどり着くためも問題点を明確に把握できるか
B どのような仕事にも前向きに臨めるか(その意義を見出し、仕事を楽しむことができるか)
C 他人に協力を求める場合、その仕事の重要性や達成できた場合のメリットを納得させることができるか(プレゼンテーション能力を含む)
というところだと思います。大学では講義や実験や卒業研究や修士論文等を通して上記能力の基盤を養うことが重要だと思います。そうすれば社会にでて異種の業務に携わっても実力を発揮できることでしょう。私は(大学では)A〜Cを養うことができなかったようです。
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その他にもA氏から聞いた事を書きましょう。
1.大学で学んだことが仕事にそのまま使えることは、少ない。例えば、加速器で粒子を加速すると質量の違いにより軌道が異なるけど、その計算などで4,5回使ったことがある程度。でも、そういうバックボーンがないと技術者として使いものにならない。
2.半導体の生産技術に関しては、日本の企業は優れている。シリコンのウエーハから半導体を作るのだが、その歩留まり(実際に製品として売れるものの割合。不良品でないものの割合)は、日本企業は高いレベルである。外資系では極端な場合は1パーセント程度になるかも知れない。
3.しかし、たとえ話なので正確な数字ではないが、現在は日本企業は歩留まり100パーセントでも1個100円の製品しか作れない。外資系は歩留まり1パーセントでも1個1万円の製品を作ることが出来る。この差は大きい。
4.工業高校を1,2番で卒業した学生が日本の大企業に入社していく。彼らが生産現場の最前線で活躍するのが、日本企業が優秀である理由の一つであろう。現在の不況は、現場が優秀なのに、そこで作る製品の戦略が劣るからではないか。これはトップの問題だ。
5.外資系は年功序列に縛られず、実力のある者はどんどん上へ引っ張る。新入社員には「あなたが未来の私の上司かも知れない」と言うが、それは本当のことである。(まだ、そういう経験はないけど)
6.「ちょっとやってみよう」というのはエンジニアにも大切なことです。
理系の受験生の皆さん、将来の参考にして下さいね。
飲む機会:そこの店で私が飲むとドラゴンズが勝つというジンクスがあり、しかも、バドガール(こんな感じ)が給仕してくれて、なおかつ安いという大変良い店。(back)
河合塾*大選抜クラス:A氏は数学は故浅野先生に教わったそうです。浅野先生は河合塾の数学科の重鎮だった大先生(全てのテキスト・模試を監修されていたそうです)で、私も受験生時代には浅野先生の問題集で勉強しました。別解がたくさん載っていて、受験生の時は意味の判らない別解ばかりでしたが、この職業に就いてから思い返してナルホドと思うものばかりです。(back)
A氏曰く「浅野先生は『***駅からこの校舎まで私が歩いてくる間に***(進出してきたばかりのライバル予備校(^^;))から石をぶつけられて死んでしまうかも知れません』と言われてました」。ライバルから見たら浅野先生は、当然、邪魔だったはず・・・。
大違いです。:私が4年生の時、工学部や法学部の友人には企業から資料が山ほど送られてきた。天井に届くほどだった。それに対し、私の所にはたったの2社。一つ目のセガは「テレビゲームならナムコの方が好きだ」と思い(爆)止めた(しまった!)。二つ目の「コピーの三田」は当時は大手だったが、なんとなく止めた。つい先頃(1998年8月)倒産しましたね。その頃から粉飾決算をしてたようです。そんなところから誘われてたとは・・・。(back)
珍しい:*大理学部数学科の大学院では現在では珍しくないそうです。就職が決まった学生で修論が書けない者は無理に書かせてもしょうがないので中退させるんだそうです。(back)
落ちこぼれ:昔と今は感覚が違うようです。数学科のことになりますが、私の先輩の研究者がこう言ってました。
「俺やおまえが院生の時は、能力があっても『自分はダメだ』というやつばかりだったろう(先輩、俺はバカだったと思うよ(^^;))。最近の奴は能力がないくせに自分は優秀だと勘違いしている奴が多い。いや、少しは能力があるのかも知れないが、周りの大多数のレベルがとことん下がったので、それと比べて勘違いしてしまうのかなぁ」 (back)
幸運にも直接結びついて:普通は結びつきません。この点はやはりA氏の研究室が優れていたからでしょう。大学はどの学部に行くかはもちろん大切な選択ですが、どの研究室に入るかはもっと大切な選択です。(back)
半導体を作る:この辺りは私は、NHKでそんなことを取材した番組を見たかなぁと言う程度の理解ですから、私に質問しないように。(back)
この差は大きい:実際は歩留まり1パーセントなどではないでしょうから(もっと高いはず)、収益力に凄い差があることになりますね。例えば、A氏の会社の半導体は例えば、有名ゲーム機や手ぶれのしないビデオカメラなどの心臓部に使われているそうです。私もそのゲーム機は持ってます。儲かっていそうですね。(^^)(back)
理由の一つ:私も少しだけ勤めた会社で経験しましたが、工業高校を優秀な成績で卒業した学生は本当に優秀です。私はそのまま3年も勤めていたら、彼らの上司にされていたはずなのでゾッとします。(優秀な兵隊に馬鹿な上官じゃ、旧日本軍だよ。)(back)