9.28/1998

15.信州大が面白い〜旺文社は誤り〜

 

〜この項も、M先生に教えていただいたネタが含まれています。感謝します。〜

今さらこんな事を書くのは遅いんだけど、今年の信州大学の入試問題に面白いものがいくつかあった。まず、次の問題文を読んで欲しい。

【’98信州大】

「 n を2より大きい自然数とするとき、等式をみたす整数解 x、y、z (xyz≠0)は存在しない。」というのはフェルマーの最終定理として有名である。しかし、多くの数学者の努力にも関わらず一般に証明されなかった。ところが、1995年この定理の証明がワイルスの100ページを越える大論文と、テイラーとの共著論文により与えられた。当然、等式をみたす整数解 x、y、z(xyz≠0)は存在しない。さて、ここではフェルマーの最終定理を知らないものとして、次を証明せよ

x、y、z を0ではない整数とし、もしも等式等式が成立しているならば、x、y、z のうち少なくとも一つは3の倍数である。

「フェルマーの最終定理を知らないものとして」という注釈が面白い。だって、フェルマーの最終定理が正しいことを使えば、「そういう x、y、z は存在しない」と直ちに判るのだから問題として変だものね。

私は授業で「よくわからなかったら具体例で調べなさい」(そりゃそうだ)と教えるんですが、この問題ではフェルマーの最終定理により、具体例が絶対あり得ないのですから、困りますねぇ。(^^;; 存在しないモノについて調べよと言うわけです。そう言う抽象的な思考が出来るかどうかを見るのだから、いい問題ですよ。受験生には辛そうだけど。

面白いことに、ワイルスがフェルマーの最終定理の証明を完成させた1995年の入試で、広島大学がこんな問題を出している。

【’95広島大】 等式をみたす正の整数 n は n=2 に限ることを示せ。

n≧3 の場合にはこの等式が成り立たないことがフェルマーの最終定理から直ちにわかるので、「答案にそう書いたらどう採点されるのだろう?」と私の近辺で話題になりました。そんな受験生はいるわけないですけど。(^^)

この問題の解答は、両辺を 13^n で割ってみればよいです。すると、n (≧3)が大きくなるに従って左辺はドンドン小さくなりますが、右辺は1なのですから等号が成立しないのは明らかです。

ワイルスは今年フィールズ賞そのものではなく特別賞をもらったようですね(ここに写真が)。フィールズ賞は受賞年齢が39才までという制限があるからでしょう。

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さて、今年の信州大にはこんなのもあった。

【’98信州大】 

x軸上を次の規則で動く点 P がある。

「規則:コインを投げて表が出れば +1、裏が出れば −1だけ動く」

条件とし、 n=1,2,・・・,9 に対し、 P が x=n から出発したとき、 x=10 に達する前に初めて x=0 に達する確率をpnとする。
(1) n=1,2,・・・,9 に対し、pn etc.の間に成り立つ関係式を求めよ。(以下略)

点Pの動きは次の図のようなものですね(「k」は整数)。なお、特に問題に断りがなければ、コインの表裏の確率はどちらも 1/2 と考えます。

Pの動き

これを旺文社は次のように解答していました。しかし、これは誤りです。

(旺文社 98年大学入試単元別問題集 数学2B 解答編p117 より)

593.(1) Pが x=n にあるのは、Pが x=n-1 にあって表が出るか、Pが x=n+1 にあって裏が出るのいずれかであるから、

答

答の式は正しい式だけど、それを導く理由がおかしい。旺文社の説明を図示すると、次のようになる。

旺文社の図
(旺文社の説明の図。おかしいぞ)

P が x=n から出発したとき、 x=10 に達する前に初めて x=0 に達する確率をとする」と言ってるのに、これはおかしいでしょ。Pが x=n から出発する前には、n-1 や n+1 のところにPがいるはずがないのだから。

正しくは次のように解答する。

(正解)

(1) 点Pが x=n を出発して、裏が出れば x=n-1 に行き、表が出れば x=n+1 に行く。
そのあと、x=10 に達する前に初めて x=0 に達する確率がであるから、

答

この説明を図にすると、次のようになる。

正しい図
(正しい説明の図)

この図が「P が x=n から出発したとき」という問題の条件を忠実に再現していることは明らかでしょう。

「結局、出てくる式が同じなのだからどちらの説明でもいいじゃないの?」という受験生のような(失礼!)疑問があれば、コインの表裏の確率を変更して考えてみると良い。(コインがいびつな場合ですね。)

表の出る確率を a 、裏の出る確率を b としよう(もちろん、 a + b = 1 )。

旺文社の説明なら誤答

私が正解とする方なら正答

係数の a, b の位置が入れ替わっているでしょ。普通のコインは、a=b= 1/2 であるから、この2つの式の違いは判らないので、旺文社の解答を作った人も間違いに気が付かなかったんでしょうねぇ。

そもそも、この問題は高校の数学の知識で解くには難しい。だって、高校の教科書では確率の定義は

(確率)=(場合の数)/(根元事象全体の数)

となってるけど、この問題での根元事象とは何なのでしょう?コインを投げる回数には上限がありませんから、ものすごく運が悪い(^^)と永久にコインを投げ続けることになりますね。根元事象が定かでないんですね。

ですから、この問題は「確率って何だ?」と突き詰めて考えるような生徒には実に気持ち悪い問題なのです。

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さてさて、ある問題集を見ていたら信州大の数3の問題が載っていた。一読、「あれ、こんな気持ち悪い問題を信州大は出していたかな?」と思った。

【’98信州大】 

正の定数aに対して、曲線

曲線Cθの範囲

を考える。

(1) dy/dxをθで表せ。ただし、条件とする。

(2) 曲線C上の点Pにおける接線が、x軸と交点Qを持つとき、線分PQの長さはPによらず一定であることを示せ。

これのどこが気持ち悪いかというと、(2)ではθ=π/2に対する点Pでの接線も考えるのだがこの点では曲線Cがとがってるからだ。つまり、この点での接線というのは高校の教科書では扱わないのだ。

Cの慨形
(曲線Cの慨形)

だから、(2)のような設問では「ただし、θ≠π/2 とする。」という断り書きを付けるのが普通だ。

「(1)にはθ≠π/2 が付いているのに、なんでわざわざ(2)では無くしたのだろう?」

後日、この疑問は解決した。原題の(2)にはちゃんとθ≠π/2 が付いていたのである。信州の先生が付けないはずがないよね。(^^ゞ

ところが、私の見た問題集の編者がわざわざ取ってしまったのだ。なんでそんなことするの? この疑問は残るのであった。

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付記。この項は8月末には半ば出来ていたのだが、パソコンの故障でアップするのが大幅に遅れてしまった。ようやく書き上げられて実にうれしい。(^_^) 


一般に証明されなかった:フェルマーの最終定理は17世紀から「本当に正しいらしい」と推測されていた。しかし、肝心の証明は、 n=3,4,5 など具体的な n (ものすごく膨大)の場合に発見されるのみで、どの n(>2) にも通用する証明は、ずっとわからなかった。「一般に」というのは「一般の n に対して」と言う意味ですね。(back)

問題として変:小理屈を言うと、「そういう x、y、z は存在しないのだから、その x、y、z の少なくとも一つは3の倍数である」という命題は真です。だって反例が存在しないでしょ。つまり、あり得ないモノについては何を言っても正しいと言うことです。(back)



10.1/1998追記。旺文社が間違えた問題について、聖文社はどうかなと思って「全国大学 数学入試問題詳解1集 平成10年度版」を見ました。p157に解答があり、「これは完璧だ」と思いきや、最後の答が分母が違うと間違えている。(二つ目の分母が7になってる!)直前までは合ってるのに、「最後に写し間違えた答案」というパターンでしょうか。私も授業でこういうことをよくやるので、共感を覚えます。(^^ゞ

11.15/1998追記。私の勤める予備校が「今年(西暦なら98年、年度なら97年度)の大学入試の良問・悪問」という内容の資料(正確な名称は忘れた)を発表した。一番上に挙げた信州大のフェルマーの問題が悪問として紹介されていた(^^;;。悪問かなぁ(^^;;;。悪問なんだろうなぁ(^^ゞ。う〜ん。いや、やっぱり悪問じゃないよ

だって、理学部数理・自然情報学科(≒数学科)と数3選択の経済学部向けの問題だよ。しかも、理学部は6問/180分、経済だって4問/120分という時間たっぷりの試験なんだ。これぐらい考えさせてもいいのだ。な〜んでこれが悪問なのだ? 私は良い問題だと思う(これは上でもそう書いてるね)。

 慶應の総合政策の15ページに及ぶ英語の長文も悪問とされていたけど、そうなのかなぁ。良いじゃないの、試験時間はたっぷり与えてあるんだから(確か1時間半ぐらい)。「内容がwebやコンピューターに偏っている」とあったけど、受験生の時に英語の長文なんて時間を掛けて訳しても結局は「なんだっ、こりゃ?」という内容のものばかりだったと思う。(英語はさっぱり判りません。)英語の先生の趣味には合わなかったのかな。

 あの資料で悪問とされていた問題の多くはどうせ合否に関係ないんだから(爆)、そんなに目くじらたてても仕方ないと思うよ。入試なんて満点を狙うものではないんだし(捨てる問題かどうか判断できる力も大切)、大学の先生が片手間に作ってんだしね。こちら(受験側)が真剣に準備しようとしていても相手(大学)にはそのつもりはないなんてのは、場所と状況を置き換えれば至る所で普通にあり得ることだし(シニカルモード)。

 まずいのは、そんな問題に過剰反応して「テキストに類題を入れよう」などと思うことだ(そんなことするはずないけど)。優れたテキストとカリキュラムと授業で実力を生徒につければ、ちゃんと受かってくれるんだからさ。

 本当の悪問は学力を反映させない問題じゃないの。例えば、「じゃんけんで勝ったら合格!」(爆)

 あそこでやり玉に挙げられていた問題でも、学力に反映した点数は取れるのではないかなぁ。


12.18/1998追記。上記の資料を正式に入手しました。「1998年度 大学入試問題評価 分析資料」と言いました。早稲田の政経の問題が悪問になってましたが、これは大賛成。こんなのです。

【’98 早稲田(政経)】

相異なる任意の実数a,bに対して、不等式

不等式

をみたす関数がある。このとき、a=0 にとり、いったん、b を固定する。そして、a、b でつくられる区間を n 等分し、f(x) が定数値関数であることを示せ。

政経って文系でしょ? 出題範囲は数学2まででしょ? こんな、教養部の理系向けの解析のテキストから抜き出したような問題を出してはいかんでしょ。

これを解答するには極限を使うんだろうけど、いくら数学2でも微分法を導入するところで極限を扱っているとは言え、極限を本格的に勉強するのは数学3なんだからさ、文系では無理だ。数学2までを一生懸命勉強していた子(普通そうなんだよ!)は、その成果を見せられないではないか。入試って、そんなことでいいの?

早稲田の政経と言えば、この問題もありました。う〜ん、3問中2題がこんなぐあいに、どこかの本に載っていそうな問題か。手抜きだな。政経対策には、有名問題で面倒くさそうな奴を集めたテキストを作ればいいのか。作るのは楽だけど、講義するのはイヤなテキストになりそう。


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