私が書いたテキストについて、以前、ある先生からいろいろ指摘を受けたことがある。そのときは一度に大量の指摘を受けたのだが、あまりに大量なので殆どを忘れてしまった(家庭生活で身につけたテクニック)。ただ、一つだけは印象が強くて覚えている。
どういうことかというと、ある問題の解答に次のようなことを書いたのだが、「この論証は根拠を示していないから誤りだ」と言われたのだ。
これにどういう根拠を付けるべきなのかは教えてもらわなかった(残念)ので、推測するしかないのだが、どうやら
のいずれかを用いて(おそらく命題P1の方だろうなぁ)、つまり「命題P1が成り立つから、」とか「命題P2が成り立つから」とか書いた上で
が成立すると書かなければいけない、ということらしい。
P1からP2が示されるのは明らかだし、P2が成り立てば、Qが成り立つこともすぐ判る。すなわち、中心O、半径Rの円周上に2点A、Bをとり、P2を用いて
とすればよい。(Qを示すのには、P1より弱く見えるP2で十分なんだな。)
以上から、
となっていることが判る。私に命題Qの論証が不十分だと言った先生が言わんとしたことは、このことであろうと思う。(他にあるか?)
P1、P2は確かに明らかに正しい命題に見える。しかし、Qもそれに劣らず明らかに正しい命題に見えるではないか。何故、P1やP2をQの根拠にせねばならないのだろう?
実は、(1)でP1とQをいれかえた
が証明できる。つまり、P1、P2、Qは必要十分の関係なのだ。したがって、「P1ないしP2をQの根拠にすべきだ」という意見はおかしいと思う。
Qが成り立てばP2が成り立つのは明らか(上の図を見ればいい)だから、P2が成り立てばP1が成り立つことを示してみよう。
三角形ABCにおいて、直線BC上に、
となる点B’とC’をとる。例えば、∠C<∠B<90°の場合は次の図のようになる。(こうでない場合は省略。同様に出来る。)
命題P2により、
となり、辺々を足せば、
BC=B’C’ より、BB’+CC’=2BC となるから、
この証明は厳密にはどこか怪しいのかも知れない。例えば、「BC=B’C’」なんてのは三角形ABCとAB’C’の合同から導かれる事だけど、三角形の合同条件「2辺とその間の角がそれぞれ等しければ合同」を示すのには何が必要なのか、私は知らない。だいたい、B’やC’という点が存在するのはどうして言えるのか、なんて疑問に答える能力は私にはない。(少なくとも興味がない。)
P1やQについて考えれば考えるほど、「距離って何?」「線分って何?」「平面幾何って何?」という話に帰着していって、とても受験生に要求できないレベルの話になってしまう。(私にも要求しないでね。(^^ゞ)
何を根拠として証明するかというのは大切なことなんだけど、ある大学教授が答案の書き方について語ったように「明らかなことをくどくど示す必要はない」と思う。
命題P1とQはニワトリと卵みたいな関係であり、どっちが先なのかなんてわかりはしないのじゃないかな。必要に応じて使いやすい方を使えばいいでしょ。卵焼きを作りたくて卵を買ってきたのに、
なんて言われても、困ってしまう。そんな感じの指摘だと私は感じたのだった。
いずれにせよ、(2)を証明するのが面白かったから満足なんだけどね。(^^ゞ
☆10.15/1998追記。P2を言い換えると「直角三角形は斜辺が一番長い」となるなぁ。こう考えれば、上の三角形の図で点Aから直線BCに垂線を下ろして「P2⇒P1」を証明するのも簡単だ。(2)は余計明らかに思えてきた。