10.8/1998

16.ニワトリと卵

(業務連絡:仕事してます。(^^;;)

私が書いたテキストについて、以前、ある先生からいろいろ指摘を受けたことがある。そのときは一度に大量の指摘を受けたのだが、あまりに大量なので殆どを忘れてしまった(家庭生活で身につけたテクニック)。ただ、一つだけは印象が強くて覚えている。

どういうことかというと、ある問題の解答に次のようなことを書いたのだが、「この論証は根拠を示していないから誤りだ」と言われたのだ。

「半径Rの円周上に2点A,Bがあるとき、AB≦2R
(等号はABが直径のとき)」

これにどういう根拠を付けるべきなのかは教えてもらわなかった(残念)ので、推測するしかないのだが、どうやら

命題P1「三角形の2辺の和は、他の一辺より長い」

命題P2「OA=OBである二等辺三角形OABについて、2OA>AB」

のいずれかを用いて(おそらく命題P1の方だろうなぁ)、つまり「命題P1が成り立つから、」とか「命題P2が成り立つから」とか書いた上で

命題Q「半径Rの円周上に2点A,Bがあるとき、AB≦2R.
(等号はABが直径のとき)」

が成立すると書かなければいけない、ということらしい。

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P1からP2が示されるのは明らかだし、P2が成り立てば、Qが成り立つこともすぐ判る。すなわち、中心O、半径Rの円周上に2点A、Bをとり、P2を用いて

AB≦OA+OB=2OA=2R
(不等号の等号は、ABが直径のとき)
 円

とすればよい。(Qを示すのには、P1より弱く見えるP2で十分なんだな。)

以上から、

P1⇒P2 かつ P2⇒Q  (1)

となっていることが判る。私に命題Qの論証が不十分だと言った先生が言わんとしたことは、このことであろうと思う。(他にあるか?)

P1、P2は確かに明らかに正しい命題に見える。しかし、Qもそれに劣らず明らかに正しい命題に見えるではないか。何故、P1やP2をQの根拠にせねばならないのだろう?

実は、(1)でP1とQをいれかえた

⇒P2 かつ P2⇒P1 (2)

が証明できる。つまり、P1、P2、Qは必要十分の関係なのだ。したがって、「P1ないしP2をQの根拠にすべきだ」という意見はおかしいと思う。

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Qが成り立てばP2が成り立つのは明らか(上の図を見ればいい)だから、P2が成り立てばP1が成り立つことを示してみよう。

三角形ABCにおいて、直線BC上に、

AB=AB’、AC=AC’

となる点B’とC’をとる。例えば、∠C<∠B<90°の場合は次の図のようになる。(こうでない場合は省略。同様に出来る。)

三角形

命題P2により、

2AB>BB’、2AC>CC’

となり、辺々を足せば、

2AB+2AC>BB’+CC’.

BC=B’C’ より、BB’+CC’=2BC となるから、

2AB+2AC>2BC.
∴ AB+AC>BC.
つまり命題P1が成立する。 (証明終わり)

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この証明は厳密にはどこか怪しいのかも知れない。例えば、「BC=B’C’」なんてのは三角形ABCとAB’C’の合同から導かれる事だけど、三角形の合同条件「2辺とその間の角がそれぞれ等しければ合同」を示すのには何が必要なのか、私は知らない。だいたい、B’やC’という点が存在するのはどうして言えるのか、なんて疑問に答える能力は私にはない。(少なくとも興味がない。)

P1やQについて考えれば考えるほど、「距離って何?」「線分って何?」「平面幾何って何?」という話に帰着していって、とても受験生に要求できないレベルの話になってしまう。(私にも要求しないでね。(^^ゞ)

何を根拠として証明するかというのは大切なことなんだけど、ある大学教授が答案の書き方について語ったように「明らかなことをくどくど示す必要はない」と思う。

命題P1とQはニワトリと卵みたいな関係であり、どっちが先なのかなんてわかりはしないのじゃないかな。必要に応じて使いやすい方を使えばいいでしょ。卵焼きを作りたくて卵を買ってきたのに、

「ニワトリを育てて卵を産ませて使え」

なんて言われても、困ってしまう。そんな感じの指摘だと私は感じたのだった。

いずれにせよ、(2)を証明するのが面白かったから満足なんだけどね。(^^ゞ


10.15/1998追記。P2を言い換えると「直角三角形は斜辺が一番長い」となるなぁ。こう考えれば、上の三角形の図で点Aから直線BCに垂線を下ろして「P2⇒P1」を証明するのも簡単だ。(2)は余計明らかに思えてきた。



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