今回は、高校数学はかすかに覚えてるという感じの人(社会人や大学の3,4年生あたりかな)を読者に想定して書きます。
先日、高校2年生対象の模試を実施した。採点基準を作るために数百枚の答案をざっと眺めたのだけど、驚いたことに「3次関数のグラフの接線で原点を通るもの」が求められない生徒がとても多いのだ。少数派か多数派かという分け方なら、ダントツの多数派だ(面倒な言い方をしてるのは正確な集計はまだ出てないせい)。その理由はおそらく、数2の教科書にそういう問題が載ってないからだと思う。
こう書くと「何でその程度の問題が載ってないんだ?」という反応と「教科書にないものを出題するなよ」という反応があるだろうから、順番に答えようと思う。
数2の教科書は「整式の微分積分」を扱ってるのだけど、奇妙なことに「微分は3次関数まで、積分は2次関数まで」という制限がある。だから、教科書には微分法の公式は、
とわざわざ「n=1,2,3」と断っている。「nが正の整数」とは書かないのだから、変だ。微分が3次までだから、積分で扱える関数は当然、2次までになってしまう(積分は微分の逆演算と教えるのが高校の数学)ので、積分の公式には「n=0,1,2のとき」と書いてある。
何でこんな中途半端な書き方がしてあるかというと、現在の高校の教科書での「因数定理」の扱いにその原因がある。すなわち、従来の教科書がいかに改訂されて現在の教科書になったかというと、
1.従来の教科書では数1で整式を扱い、ここで「因数定理」まで踏み込む。しかし、この定理は生徒には取っつきにくく、数学嫌いを生む原因の一つなので、高校の必須科目である数1からはずす。
2.「因数定理」は1年生では難しいのだから、2年生に回す。それも数2ではなく数Bの方に入れる。数2は教科書を全部履修する必要があるが、数Bなら4単元の中から2単元を選べばよいので「因数定理」の入った単元(複素数)を履修しなくても単位は認められる。従って、数2を学ぶのに「因数定理」は不要であるべきとなる。
3.高校では3次方程式を解くのに「因数定理」を用いるから、これを知らない生徒でも数2を履修できるためには、数2に3次方程式が登場できない。従って、微分法・積分法で3次方程式が絡んでくる内容は、数2から除かれる。
4.4次関数の増減を調べるという問題は数2から除く。「導関数=0」という3次方程式を解く必要があるからだ。よって、4次関数の微分を教えても仕方ないので、4次関数の微分自体を数2から除く。つまり、数2の微分は3次まで。
5.微分が3次までだから、数2の積分は2次までとなる。だって、3次関数を積分しようとすると、微分して3次関数になる関数を求めることになり、どうしても「4次関数を微分して3次関数になる」という知識が必要だが、これは教えないのだから。
6.3次関数のグラフの接線の方程式は、接点が具体的に与えられている問題は数2で、もちろん扱ってよい。しかし、「与えられた定点を通る接線を求める」という問題は、接点のx座標についての3次方程式を解く必要があるから、数2から除く。
こんな感じで、「因数定理は難しい」から始まって、「風が吹けば・・・」式の連鎖の末、「定点を通る接線を求める」という問題が数2の教科書から消えてしまった。
とはいえ、このタイプの問題は昨年の入試でも出題されている(北海道教育大、福島大、防衛大、西南学院など)。予備校の模試ではやはり数2の範囲でも出題すべきと考えて、今回出題したのだが、因数定理を知らなくても解けるように、
原点を通る3次関数のグラフについて、原点を通る接線を求めさせる
という形で出題した。これなら、接点のx座標についての3次方程式は、0が重解なんだから、因数定理は知らなくてよい。
これなら大丈夫だよな、ちゃんと解いてくれるよなと思ったのだけど、平均点は悪そうです。このあとにつけた問題で差を付けるつもりだったのに、その前でつぶれそう。
教訓:生徒が見たことない形式の問題は、実際は易しくても平均点は下がる。
数2;数学2の略(本来はローマ数字)。整式の微分積分、図形と方程式(座標幾何)、三角関数、指数対数を扱う。旧課程の基礎解析に相当。もっと前なら、数学2b。(戻る)
書いてある;少なくとも、手近にあった啓林館と数研出版ではそうなってる。数研の一番ハイレベルなもの(著者が「永尾 汎」で始まるやつ)でさえそうなのだ。あの受験参考書のような教科書でさえもねぇ。(戻る)
因数定理;「f(x) を整式とし、方程式 f(x)=0 がaを解に持てば、 f(x) は x-a で割り切れる」という「そりゃそうでしょ」という感じの定理。(戻る)
3次方程式を解く;高校での3次方程式 f(x)=0 の解き方は、解aを一つ見つけて(たいてい定数項の約数)、すると因数定理より f(x) は x-a で割り切れることがわかるから因数分解してみて、残りの解を求めるという方法を採ります。(戻る)